フィルムカメラハウジング転用術   by MASSAN

 長く水中写真をやっていると、使わなくなったハウジングがゴロゴロなんていう方も多いのでは?私も青いF801用ハウジングに始まってフィルムカメラのハウジングが稼動するものだけでも4台あります。そこで、この内1台のデジタル一眼レフカメラへの転用を試みました。
 転用するにあたってハウジングに加えた工作は場当たりで、手持ちのパーツ(レンズギアやピックアップファインダー)が使えたなどの幸運に恵まれた部分が多くあります。どなたにでもお薦めできる転用術とは言えませんが、水中写真を楽しむ何らかのヒントになればと思い報告します。

 

1.ハウジングとカメラの組み合わせは
 転用を試みたのは、既に巷で話題のF4用ハウジングとD3200(現在販売されているのはD3300)の組み合わせです。カメラはD5000シリーズでも可能なようです。

 

 

 かつてF801ハウジングにデジタルカメラが入らないものか試したことがありました。結果は、デジタル一眼レフカメラ特有の厚みに邪魔されて裏蓋が閉まらず断念しました。当たり前の話ですが、ハウジングの転用では元のカメラよりボディの小さいカメラを選ぶことになります。

2.目標は
 新たにハウジングに組み込むカメラは、元のカメラと同じレンズマウントを使用するデジタル一眼レフカメラですので、ハウジングに組み込んだ状態でシャッターを切ることはもちろん、

・ファインダー撮影する
・フォーカスはあるいはズームのレンズギアを回す
・絞り、シャッタースピードを変える
を目標に、日曜大工程度の道具と材料で工作します。

3.カメラボディを組み込む
 レンズギアを回すことが目標の一つですので、まずはレンズポートの中央にレンズを位置させるようにカメラボディ取り付け部分を工作します。

 

 考え方は至って簡単です。ミラーを用いる一眼レフカメラではレンズ、ファインダー、そして多くの場合ボディを固定するための三脚ネジの穴もレンズ中心線の延長線上にありますので、新旧のカメラで左右方向の取り付け位置に変化はありません。
 次に上下方向ですが、新旧のカメラにはカメラボディの底からレンズ中央までの高さに違いがあります。この高さの差分だけハウジングのカメラボディ取り付け部分を調整します。今回の転用では新しいカメラの方がカメラボディの底からレンズ中央まで高さが低いので、カメラボディ取り付け部分かさ上げすることになります。樹脂板などを張って高さを稼ぎ出す方法もありますが、今回はカメラボディ取り付け部分そのものから自作しました。

 

 

 L字断面のアルミ素材を元のカメラボディ取り付け部分に似せて切り出して、新旧カメラのボディ底からレンズ中央までの高さの差分だけハウジングへの取り付けネジを通す穴、位置決めホゾの穴を下方向にズラして穴明けします。穴の位置は物差しで測る程度の精度でしたので当然のように1発ではハウジングに取り付かず、ヤスリで穴を広げてハウジングのネジ、ホゾに合わせました。そこは自家製ですので水密や強度に問題が生じなければ「大雑把な工作でヨシ!」としました。
 最後にカメラの前後方向の取り付け位置を決める三脚ネジ穴です。左右方向は先に述べたように新旧カメラで変わりは無く、元のカメラボディ取り付け部分と同じ位置に中心線を引きます。問題は前後方向で、新しいカメラをハウジングに組み込んだ状態で最適な位置を探ることになります。
 既成のレンズギアをそのまま使うことを考えれば、新旧カメラのレンズマウント(レンズの後端)がハウジング内で同じ位置になるよう三脚ネジの穴の位置を決めればよいのですが、今回はハウジングの内側に次に述べるピックアップファインダーを組み付けましたので、レンズマウントから割り出した適正位置を無視してカメラを前進させています。レンズギアの問題は後回しにして、ファインダー撮影を優先したわけです。
 実際の位置決めは現物合わせです。自作したカメラボディ取り付け部分にカメラボディを乗せてハウジングの裏蓋を静かに閉めます。カメラボディは裏蓋の内面(今回はピックアップファインダーの前端)で先に引いた中心線上を押し出されますので、行き着いた先をカメラ取り付け位置としました。その際、水圧でハウジングの裏蓋が密着することを想定してOリングは取り外し、なおかつカメラボディと裏蓋の内面が干渉することのないよう若干の隙間を設けるようにしています。位置が決まったところでカメラを固定する三脚ネジ穴を明けます。

 

 

 自作したカメラボディ取り付け部分に三脚ネジでカメラを強く締め付けても、衝撃が入るとカメラは左右に首を振ってしまいます。カメラボディ取り付け部分にゴム板などを貼り付けて首振りを防いでいます。

 

 

4.シャッターを切る
 人間の手の形を考えればシャッターボタンの位置はカメラが変わってもそう大きく変化するものではありません。シャッターはハウジングのシャッターレバーを少し調整するだけで切ることが出来ました。しかし欲張って、シャッターレバーには後に述べる露出を変更するための絞り変更ボタンも押してもらうことにしました。

 

 一つのレバーで二つのボタン操作を行うために先ず考えたのは回転の正逆による切り替えですが、今回は安直にこのハウジング固有の特徴を使わせてもらうことにしました。その特徴とはシャッターレバーがハウジングの内外に僅かではありますが出し入れできることで、これをカメラのシャッターボタンと絞りボタンの位置関係と関連付けて2つのボタン操作を切り替えています。二つのボタンはカメラの前後方向にも位置に違いがありますので、シャッターレバーの出し入れで足りない位置の変化はカメラのシャッターボタンにヒンジ状の樹脂板をあてがうことで補っています。

 

 

 一見、うまく行った工作ですが、本来回転方向に操作するシャッターレバーを水中で内外に出し入れすることには浸水のリスクが伴いますし、そもそも操作性が良くありません。やはり回転の正逆による切り替えの方が好ましいと思います。

5.ファインダー撮影する
 デジタル一眼レフカメラのファインダーは往々にして小さく、ハウジングに組み込んだ場合そのままではファインダー撮影できないのではないかと思います。今やハウジングにピックアップファインダーは必需品ですので、今回は自宅のジャンク箱から見つけ出したピックアップファインダーを使っています。

 

 ピックアップファインダーの出処は不明ですが、F801などの丸いファインダーにねじ込んで使用するタイプです。新しいカメラのファインダーに合わせてみると目を離した状態で概ね全視野を見ることが出来ました。これはラッキーと言うことでハウジング側のファインダー窓の形に樹脂板を切り出し、ピックアップファインダーをはめ込んでハウジングの内側から取り付けました。

 

 

 ハウジングのファインダー窓がカメラのファインダーより上に位置しているため出来上がりは若干芯がズレましたが、ファインダー撮影が可能な範囲に収まりました。

 

 

 

6.レンズギアを回す
 前出3.で述べたように、今回はレンズマウントから割り出した適正位置を無視してカメラボディを前進させてハウジングに組み込んでいますので、レンズギアは逆に位置を後退させないとハウジング側のギアと噛み合いません。あまり誉められた方法ではありませんがこの問題もなんとか解決しました。

 マクロレンズは筒型のレンズギアを本来の位置よりカメラ側にズラしてレンズに取り付け、グラつく部分をビニールテープで止めています。ワイドレンズでは噛み合わせに関係しないレンズギアをエクステンション代わりに張り合わせてレンズギアを厚くすることで、ハウジング側のギアと噛み合わせています。

 

 

 実は、既成のレンズギアが使えない場合はレンズギアそのものを自作する覚悟でいました。配水管に使う塩ビパイプとホットボンドでレンズギアを自作するのですが、この工作については別の機会にご紹介します。

7.絞り・シャッタースピードを変える
 新しく組み込んだカメラで絞り値・シャッタースピードを変化させるためには、前出4.で述べた絞り変更ボタンとコマンドダイヤルを操作する必要がありました。このコマンドダイヤルを回す操作が今回の工作の最難関でした。

 

 

 新しいカメラをハウジングに組み込んだ時、コマンドダイヤルの上部には元のカメラの露出補正を操作するハウジング側のダイヤルが位置しています。これは大変魅力的に映りましたが、先ず考えたのはハウジングにある本来の絞りダイヤルの回転を新しいカメラのコマンドダイヤルに伝える方法です。撮影時に左手で露出を変えたいとの願望から、本来の絞りダイヤルこだわったわけです。しかし、絞りダイヤルにワイヤーを取り付けてハウジングの中をあれこれと取り回してしてみても失敗。結局、ハウジング側の露出補正ダイヤルを使った安価かつシンプルな方法で解決しています。
 新しいカメラのコマンドダイヤルの上部にハウジング側のダイヤルが位置するといっても、回転の軸が一致していたわけではありませんのでちょっとした工夫が必要でした、材料は、ゴム管と直径4mmほどの竹ヒゴを使っています。ゴム管はアルミ網戸の網の張替えに使用する直径6.8mmの網押さえゴムを購入しました。まず、竹ヒゴを30mm程度の長さに切り、一方の端に20mm程度の長さに切ったゴム管を5mm程度差し込んで瞬間接着剤で固定します。次にゴム管のもう一方の端をハウジング側の露出補正ダイヤルの軸に固定します。これで竹ヒゴとハウジング側の露出補正ダイヤルの軸とが繋がりますが、軸そのものは結合しませんのでゴム管は自在継ぎ手のような役割を果たします。結果、回転を軸の離れた位置に伝えることができます。

 

 

 この状態でハウジングに新しいカメラを組み込みハウジングの裏蓋を閉めると竹ヒゴがコマンドダイヤルに接触し、ハウジング側の露出補正ダイヤルの回転をコマンドダイヤルに伝えることができます。竹ヒゴがコマンドダイヤルに接触する部分には短く切ったゴム管をはめ、滑りを止めます。最後に、回転によって竹ヒゴが左右にズレることを防ぐために、すり割りを入れた樹脂板をハウジングの裏蓋に取り付けて工作完了です。

 

 

 文字にすると冷めた感じですが、コマンドダイヤルを回転させるには細かな調整が必要で完成までには熱くなるものがありました。「これでいける!」と思って出掛けたツアーでの撮影をまるまる棒に振り、我ながら無駄ことをやっているなと思ったほどです。また、この方法ではハウジング内側に取り付けた竹ヒゴをコマンドダイヤルに押し付けることになり、ゴム管程度の反発力とは言え裏蓋の水密にはマイナスに方向に働きます。そして、ハウジング側のダイヤルには本来の回転方向以外の力を加えることになり浸水のリスクが増えます。他にコマンドダイヤルを回す手ごろな方法があれば教えていただきたいものです。
 ちなみに、ハウジングの内側への樹脂部品を取り付けですが、はじめに試した両面接着テープは鋳造製ハウジング内面の凹凸と温度変化に耐えられずうまく固定できませんでした。行き着いたのは樹脂部品とハウジング内面の間に厚さ0.5mm程度のゴム板を挟んで瞬間接着剤で固定する方法です。まずまずの接着強度があって高温にも耐え、結果は良好です。

8.レンズポート、ストロボは
 レンズポートは既成のまま使用します。ただし、今回はカメラボディの取り付け位置が前進していますので、使用するレンズの本来のポートよりも前方向に長いレンズポートを選択します。60mmマクロレンズであれば105mmマクロレンズ用のポート、20mmワイドであればスタンダートポートにテレコン用のエクステンションを加えています。ドームポートは持ち合わせが無く試していません。

 ストロボは、従来の電気接点をそのまま使っています。ストロボが新しいカメラに対応しておらずTTL調光はしていません。光学接続のストロボしか持ち合わせの無い方であれば、ストロボ接点の改造が必要になります。ハウジング内部の空間には余裕がありますので、デジタルカメラの内臓ストロボをポップアップさせて発光することに支障は無いようです。

 

 今回の転用では新しいカメラが元のカメラより大幅に軽く、使用するレンズやポートにも因りますが浮力がプラスになります。真水で浮力調整したものの海水ではカメラが海底を転がるように移動してしまい、近くにいたダイバーに拾ってもらうという失態も犯しました。

9.撮影する
 ここまで工作しても水中で操作できるのは「フォーカスして」「露出を変えて」「シャッターを切る」だけです。画像の再生・削除はおろか電源のオン・オフさえもハウジングの外からは操作できません。不自由極まりないのですが、そこのところは撮影枚数に制約は無いと言えるデジタルカメラの特性でカバーします。「数打ちゃ当たる!」を信条に撮影に臨みます。

 

 ISO感度、フォーカスエリア、ホワイトバランスなどの必要な設定を終えた新しいカメラを、電源を入れた状態でハウジングに組み込みます。
 フォーカスはハウジングのフォーカスダイヤルを回すことでマニュアルフォーカスが可能です。レンズ内にモーターを備えるレンズであればオートフォーカスも可。
 露出は本来の位置から外側に引き出したシャッターレバーを引いてデジタルカメラの絞り変更ボタンを押下し、加えてハウジング上部のダイヤルを回してデジタルカメラのコマンドダイヤルを回転させることで絞り値を変化させます。

 

 

 適正露出を得るためには、撮影直後にデジタルカメラの液晶モニターに表示される画像を確認し、露出とあわせてストロボ光量の変更で調整します。撮影直後の画像確認は表示される時間が短くオーバー・アンダー、ストロボ光の回り具合を確認できる程度ですが、何とか撮影に耐えられるだけの情報は読み取ることが出来ます。1回で駄目なら2回3回と繰り返し撮影し、確認します。
シャッターは、シャッターレバーを本来の位置に押し戻して引きカメラのシャッターを切ります。

10.使用感
 外形は大きいのですが水中重量は前述した通り軽く、取り回しは楽な方だと思います。だだし、マクロレンズでは使用レンズに対してポートが長く、前が軽い印象です。
ファインダーは今風でいかにも小さく、加えてマスク越しでは目を動かさないと四隅までは見えません。それでも明るさは充分で使用に耐えるものだと思います。
フォーカス操作は従来と何ら変わることなく快適です。マニュアルフォーカスを基本にしていますが、ピントの山も何とかファインダーで確認できます。細かいピントはフォーカスエイドのピント表示で確認しています。一方、オートフォーカスは水中でフォーカスモードを選択できませんので使い勝手が今一つだと思います。
 残念なのは、レンズ絞りの操作が右側に行ってしまったこと。今風のコマンドダイヤル、サブコマンドダイヤルでの右手操作に慣れた方なら気にならないでしょうが、レンズの絞りリングを愛する昔人には何とも不便です。また、絞り値の変更にはシャッターレバーとハウジング上部のダイヤルを同時に操作する必要があり、体勢も窮屈になってファインダーを覗きながらの操作に無理があります。結果、マクロ撮影では被写体への接近前に露出を決めて、後はレンズの繰り出しによる絞りの変化と連写によるストロボのチャージ量の変化での細かな露出変化を期待している状況です。
 実際の撮影では、露出の操作に難がありますので少々アンダー目の設定を心がけています。ROWで画像を記録し画像編集ソフトウェア上での現像段階で好みの明るさに持ち上げます。デジタルですので「飛びさえしなければ後はなんとかなるもの」と割り切っての撮影です。
最廉価と言えるデジタル一眼レフカメラですが、素人目に画質は充分で全紙まで引き伸ばして楽しんでいます。

 

11.最後に
 言うまでも無いことですが、撮影に集中されたい方は最新の機材を購入されるでしょうし、そもそもこのような工作をする暇があれば海に出かけたほうが時間を有効に活用したと言えるでしょう。
この報告をお読みいただいてご自身でもハウジングの転用を試みようとされる方へのお願いです。圧力のかかる箇所を工作したわけではありませんので大きな問題の原因になるとは思いませんが、工作中のケガや浸水によるカメラ・レンズの破損などのリスクは少なからずあります。ご自身の責任において工作され、使用されるようお願いします。あわせて、ご紹介した転用術はハウジングやカメラのメーカーさんが想定した使い方ではありません。万一、不具合が生じてもメーカーさんに手間を取らせることの無いようにお願いします。
 最後になりましたが、ハウジングメーカーさんにはこの工作を「長年連れ添ったハウジングに今一度活躍の機会を与えたかった老成ダイバーの親心」とお考えいただいて、大目に見ていただければと思います。

 ご精読に感謝申し上げます。